モデル事業:福岡女子大学の事例紹介

福岡女子大学の社会人対象プログラム

 福岡女子大学では社会人を対象としたプログラムに力を入れており、「女性のためのウェルカムバック支援プログラム」「イノベーション創出力を持った女性リーダー育成プログラム」「女性トップリーダー育成研修」の3種類の事業が対象別に実施されています。それぞれ目的や対象は異なっていますが、「次代の女性リーダーを育成する」という福岡女子大学の教育の基本理念に則って事業が企画・立案されています。

(1)「女性のためのウェルカムバック支援プログラム」

「家庭の事情等によって前職を離れ、再就職を目指している女性」を対象に「同じ目標を持つ仲間との対話や、専門家によるコーチングを通じてなりたい自分を思い描き実現するための知識やスキルをつける」ことを目的とした4ヶ月のプログラム。仲間とのコミュニケーションを通して自分を再発見する「自分を再発見」、今の自分の魅力を120%磨いて新しい自分を創り出す「自分を磨く」、新しい自分になるための最終準備「新しい自分への再挑戦」の3分野から構成されています。「新しい自分への再挑戦」ではこれまでの学習で身につけた「自分らしさと魅力」を企業の担当者の前でスピーチし、スピーチ後の交流会でインターン候補企業の希望と企業からの意向を確認してインターン先を決定。インターン期間は有償での勤務とのこと。これまでの経験や講座で得た学びを活かした実践の場となっており、受講生は「生活の場」から「仕事の場」への気持ちの切り替えを学んでいきます。受講料も5万円に抑えられており、講座開講日には、大学構内で乳幼児保育と学童保育が無料で実施されています。

(2)「イノベーション創出力を持った女性リーダー育成プログラム」

 問題を発見し解決に結びつける力とチームメンバーと協力しつくりあげる力を身につけることを目的としたプログラム。平成26年に文部科学省の「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」への応募を視野に開発されたとのこと。現在は文部科学省職業実践力育成プログラム(BP)認定講座、教育訓練給付金指定講座になっています。
 内容は3つのモジュールから成り立っていて、モジュール1「リーダーシップを発揮する―コミュニケーションデザイン実践―」ではチームでの演習を通じてワークショップデザイン、ファシリテーションのスキルを学び、チームビルディングを体験しながら自分なりのリーダーシップを見つけていきます。
 モジュール2「創造性を磨くーデザイン思考実践」は,デザイン思考やマーケティング戦略の基礎的なフレームワークを学ぶことによって問題を発見し解決に結びつける力を身につけます。モジュール3「イノベーションを実践する」はモジュール1,2で得た知識をもとに自らが直面している課題を解決するためのアイデアを練り上げていきます。対象は企業や団体、行政、NPOなどでリーダーとして働く女性及びリーダーを目指す女性、職場復帰や再就職を目指す際に高度なスキルを身につけたい女性、起業を目指す女性と多岐にわたっていますが、出願時に志望動機や学習目的を記入して提出することになっており面接もあるので、意識の高い受講生が集まっている模様。費用は18万円(企業が負担する場合もある)。

(3)「女性トップリーダー育成研修」

 企業、団体等で部長や課長等の管理職にある女性、幹部候補の女性等を対象にさらに上の階層を目指すことを目的としたプログラム。2泊3日の宿泊研修と日帰りフォローアップ研修から成り立っており、産学官のトップリーダーの講義と対話、グループワーク、産学官トップリーダーとの意見交換会、交流会、ロールモデルによるトークセッション、コミュニケーションランチなどの内容で構成されています。受講費用は15万円。
 現在、女性活躍推進法によって女性の活躍推進が企業の課題にもなっていることから企業からのニーズも高く費用も企業が負担していとのこと。

 3つのプログラムのうち「イノベーション創出力を持った女性リーダー育成プログラム」の受講生にお話を伺いました。当日は(2019年12月21日、モジュール3Day 4『ビジネスモデルの枠作り』)受講生3~4名に1名のメンターが配置される中で、ワークが進んでいましたが、モジュールの組み立てとしては、様々な演習や実習をチーム単位で取り組むことで、チームビルディングやリーダーシップの発揮方法を学ぶ形式になっているようです。


大木早苗さん

大木早苗さん

Ⅰ.フェース情報
 大木早苗さん(49歳)伊万里市にご両親とお住まい。公共交通機関を利用して片道2時間かけての参加。北九州大学をご卒業後、伊万里市役所に入所。現在は、政策経営部まちづくり課まちづくり推進係長。

Ⅱ.受講動機等
 仕事上、ファシリテーションや課題解決の手法を学びたいと考えていた時に、福岡女子大学でチラシを見つけ、すぐに受講を決めたそうです。(モジュール1から3を自費で負担)
 過去に社会福祉士の通信教育を受けたことがあり、費用を高額とは思わなかったとのこと。(公務員なので専門実践教育訓練給付制度は利用不可)
 又、NWECのサマースクールに参加した経験もあるとのお話でした。

Ⅲ.プログラムの評価
 各モジュールは内容が良く、自分が仕事上悩んでいたことが、受講することで解消されると実感しているので満足しているそうです。さらにモジュールで学んだことは、職場でも共有しているとのこと。
 大木さんは、「参加者が女性ばかりなので話が弾む、男性が入っても問題はありませんが、同性だけの方がテーマを絞りやすいのでは。」と話してくださいました。又、多様な経験や発想を持っている女性が参加していて、参加者同士の刺激も心地よいとのこと。
 モジュールは、1.「リーダーシップを発揮する~コミュニケーション実践」 2.「創造性を磨く~デザイン思考実践」 3.「イノベーションを実践する」となっており、それぞれが独立しているものの、次のモジュールへのステップになっていて、つながっているのがとても良い、と高い評価をされていらっしゃいました。オンライン学習についても特にマイナス点は、見当たらないとのことでした。

Ⅳ.インタビュアー所感
 大木さんは、インタビュー・リサーチ等でもチーム内でリーダー的存在として積極的にプログラムに関わっている受講者です。又、教室は自由闊達な雰囲気で、受講者は皆、楽しみながら、互いに相談したり、刺激を受けたりしながらブログラムに参画している様子がうかがえました。このプログラムでは、チームビルディングやリーダーシップの発揮方法を学ぶために、マシュマロチャレンジ やレゴⓇシリアスプレイⓇ といった手法を導入しています。大木さんは、マシュマロチャレンジが思い出深いということでした。体験して、振り返ることで多くの気付きがあることが、受講生からの高い評価につながっていると思われます。一方で、社会に根強くある固定的な性別役割分担意識がチーム力やリーダーシップを阻害する要因として影響していることに気付き、それをどのように克服するかについてもプログラムに付加することが望ましいと考えられます。


野田亜祐美さん

野田亜祐美さん

Ⅰ.フェース情報                  
 福岡県で生まれ育った野田さんは短大を卒業後、今の会社に勤めてはじめて10年になる中堅社員。就職先を考えるとき、県外に出ることは考えず、慣れ親しんで大好きな地元に寄与している企業を探し、地域に貢献することをポリシーとしている地元企業に就職。入社後、店舗、コールセンター、ネット販売などの様々な部署を経験。
 私生活は母と夫と今年の4月に小学校に入学する長女の4人暮らし。5月には二人目の出産予定。結婚後、子育て中も仕事を継続。収入を考えると働かなければ生きていけないし、仕事を辞めることは考えなかったとのこと。職場にはワーママも多く、夫とは家事も育児も分担しているそうです。

Ⅱ.受講動機
 この講座は会社から勧めにより受講。入社10年という節目で、今後の自分のキャリア形成を考えたいと思っていたところ、会社では1年かけて人材を育成するという新たな取組が始まりました。社内のいろいろな部署を経験させ外部の講座を受講することで力をつけさせることを内容としたもので野田さんが抜擢されました。前年度に実施されたこの講座の無料体験ワークショップにたまたま参加して、とても興味を持っていたところ、人事から福岡女子大学の講座に行ってみないかと声をかけられ、びっくりしながらも「ぜひ行かせてください」と願い出たとのことです。

Ⅲ.プログラムの評価
「この講座の内容はとても満足できるものです。全体を通して課題を深掘りして考え直すことのトレーニングができたと考えています。モジュール1を振り返ると、これまで会社の中では『対話』をしていなかったのではないかと気がつきました。出会った先生の講座内容が素晴らしかったので、その先生の別の講座に実費を払って参加もしました。
 受講生はいろいろな仕事をしており経験も豊かなメンバーが多く、彼女たちとのディスカッションはとても勉強になります。このような講座を受けたいと考える人は基本的に前向きな人が多いのでと思います。他業種の人と関わることで考えが広がっていくことが嬉しく、今後の自分の仕事に繋がる可能性も感じています。
 これからのことを考えるとこのセミナーで学んだことを仕事にどれだけ活かしていくことができるかが課題です。将来管理職になるかどうかはわかりませんが、社内で一緒に働く人がポジティブになれるような働きかけと対話を意識しながら仕事をしていきたいと考えています。」

Ⅳ.インタビュアー所感
 野田さんは、人材育成の取組の一環として企業から派遣されてこの講座に参加されています。問題意識もとても高く積極的にグループワークに関わり、コミュニケーションスキルの向上や気づきの多さを実感していらっしゃいました。職場に戻ってからこの講座で得られたものをどのように還元するかを今から熱心に考えていて、今後の展開や野田さんの活躍が期待されるところです。
 しかし、今の社会では女性が働き続けることにはまだまだ課題がたくさんありますので、野田さんが職場に戻ってからもサポートできるような仕組みがあればいいのではないでしょうか。また、この講座の中にも日本社会のジェンダー問題や政策として力が入れられている「企業における女性活躍」の現状や課題等についてのレクチャーがあってもいいのではないかと考えました。