モデル事業:京都女子大学の事例紹介

京都女子大学の女性を対象とするリカレント教育課程

 京都女子大学は100年以上にわたって女性人材の養成を担ってきた歴史を持っています。同大学では教育、研究と共に、地域・産学官連携が使命の一つとして位置づけられており、「地域連携研究センター」ではこの使命を実現するためのさまざまな事業に取組んでいます。女性を対象とする「リカレント教育課程」も同センターが中心となって実施しています。

(1)「大学連携京都府リカレントプログラム」として出発

 2018年度、京都府の事業として、出産や育児などによって離職した女性を対象に、学びとキャリア形成・就労支援を一体的に行うための「大学連携京都府リカレントプログラム」を開始しました。このプログラムは、京都府と府内の大学、就労支援を担う事業者が連携して実施するもので、2018年度は京都女子大学とオムロンエキスパートリンク株式会社が京都府と連携して同プログラムを実施することとなりました。6か月間にわたるプログラムは2つの部分から構成されています。京都府が運営する女性のための就労支援スペースである京都ウィメンズベースで行われる基礎講座と、大学で行われる発展講座の2部構成です。2018年度のプログラムには、開講に先立って行われた「池上 彰と考える、女性活躍のためのリカレント~「働きたい」をあきらめない、あなたへ~」と題したキックオフセミナー参加者など、20代から50代までの20人の女性が受講。京都府の支援により、無料の保育が提供されていたこともあり、受講生の40%が保育希望者であったとのことです。

(2)京都女子大学独自の「リカレント教育課程」として継続

右が竹安副学長、
左が教務部連携推進課長の中野涼子さん

 京都府との連携単年度で終了となりましたが、京都女子大学では独自に「リカレント教育課程」を2019年度以降も継続して開講しています。対象者は大学または短期大学卒業者、もしくは同等の学力があると認められた女性で、定員は30人、書類審査と面接による選考で、受講の動機を確認して受け入れています。講座開講期間と就業支援期間を合わせて6か月間。2019年4月に文部科学省職業実践力育成プログラム(BP)、10月には厚生労働省専門実践教育訓練給付制度の認定を受けました。京都府との連携はなくなったことにより、受講料を8万円から9万8千円に値上げし、また保育費用の一部を受講生負担とせざるを得なくなり、現在は月額2万円を徴収しているとのこと。保育の有料化に伴って、保育対象年齢の子育て期の女性の受講が減り、受講者の年齢は昨年度より高めになっているといいます。
 地域連携研究センター長で本教育課程の責任者でもある竹安栄子特命副学長によれば、日本女子大学のリカレント教育課程を参考にしつつ、就業環境が首都圏とは違う京都という地域性を意識して、1年間ではなく6か月の課程とし、また就労支援を強く打ち出すのではなく、学びの場であることを前面に出しているとのことです。

(3)リカレント教育課程の内容

 授業の時間は10時35分から16時15分までですが、主要科目は学びやすさを考慮して2、3時間目(10時35分から14時30分)に設定されています。リカレント教育課程初回には竹安特命副学長がジェンダー論を講義し、国際比較を含むデータやフェミニズム理論を紹介しているといいます。シラバスは学部授業科目からなる「基礎教養科目」と、リカレント生のみを対象に開講される「キャリア形成科目」の2種類から構成されています。「基礎教養科目」としては、「服飾美学」や「食空間プロデュース論」などのほか、「産学連携講座」として地元の大手企業社員による寄附講義などがあり、リカレント生は学部学生と机を並べて受講しているとのこと。教室の最前列に座って熱心に受講するリカレント生の存在は、学部学生にもよい刺激となっているといいます。「キャリア形成科目」としては、「ライフ・キャリアデザイン」ほか、英語やパソコン、簿記、会計、人事総務などの実務スキル習得のための科目が設けられています。
「ライフ・キャリアデザイン」はキャリア形成科目中の中核的な科目で、キャリアコンサルタント資格を持つオムロンエキスパートリンク(株)のスタッフが担当しています。ヒアリングに伺った日には「ライフ・キャリアデザイン」の授業が行われており、オブザーバーとして参加して受講生のキャリアプラン模擬発表を聞きました。この授業の到達目標は、自己理解が深まり、自分らしく働くために中長期的なキャリアビジョンが描けていること、就労への意欲が醸成されていることと設定されていました。

(4)多様なリカレント受講生

 2019年度リカレント教育課程は20代から60代までと幅広い年齢層の女性が受講しています。そのため、キャリアチェンジを考える20代後半の女性、子育て期の30代女性、子育てが一段落した40代女性、セカンドライフを視野に今後の生き方を考える50代、60代の女性などライフステージもさまざまで、なかにはすでに起業している方も含まれています。社会教育主事任用資格、社会保険労務士、看護師、保育士、幼稚園教諭、中学校教諭などの資格をもっている方も受講しており、これまで経験した職業も事務、営業、公務、教育、研究、保育、看護など多様です。


(5)受講生インタビュー

山口香世さん

山口香世さん

Ⅰ.フェース情報
 山口香世さん(36歳)京都市にパートナー、2歳のお子さんとお住まい。通学時間は自家用車で片道40分。京都女子大学現代社会学部竹安ゼミで学んだ。卒業後、大手信販系クレジット会社で営業職として10年間、営業事務職として3年間働いた。

Ⅱ.受講動機等
 出産を機に退職したが、このままでよいのかと迷いと不安のなかにあったときに、大学の先輩から2018年度のキックオフセミナーに誘われ、第1期生の登壇者の話を聞いて関心を持ち、パートナーを説得。保育が利用できることが決め手となって応募されました。

Ⅲ.プログラムの評価
 半年間、週に5日間、仲間と共に学べることにとても満足しているとのお話です。毎日の積み重ねが成長につながっていることを実感されており、受講料や保育負担金も決して高くないと評価されています。「ライフ・キャリアデザイン」では、キャリアという言葉の意味を深く考えられたこと、年齢もバックグラウンドも異なる仲間と一緒に励まし合いながら学んできたことで、勇気づけられ、うまくいかないことがあってもやり直せることに気づけたとお話しくださいました。役に立った科目は企業会計や簿記、パソコンなど。企業会計を学んだことで決算書の意味がわかるようになり、就職活動の際に会社を見極めるためにも役立つと思うと前向きの評価です。簿記は苦手意識があったが、資格取得に挑戦して、「できる」と自信を持って言えるようになりたいとのことでした。これから就職活動に臨まれるとのことで、物事を計画したり、企画を提案したりすることが仕事へのモチベーションとなるので、家族との時間を大切にしながら、人の幸せに役に立っていると思える提案ができる仕事を探したいとのこと。
 リカレント教育課程を受講して驚いたのは、国際的に見た日本のジェンダー格差の状況について。女性活躍についての情報も聞くが、それが自分の状況とどのように結びつくのかがわかりにくいとの感想を述べられました。

Ⅳ.インタビュアー所感
 山口さんは子育て真っ最中にあり、ご家族との生活を大切にしたいと思いつつ、やや閉塞感を感じていたことが受講への動機となっています。山口さんにとっては、学ぶ際にも、今後の就職活動にあたっても、保育の確保が大きな課題となっています。「ライフ・キャリアデザイン」の授業では、自分はどうありたいのかについて徹底的に自らを問うという作業が、山口さんの漠然とした思いを整理することに役立ったのではないかと思われます。少人数の受講者が半年間にわたって、働くために学ぶプロセスを共有することによる仲間意識は強く、励まし、刺激、気づきなどの相互作用がプログラムの効果を高めている様子がうかがえます。就職活動にあたっては、やりがいや自分のモチベーションに合った仕事ができるかどうかを大切にして就職先を選ぼうとしており、業種や職種を絞り込むよりは選択肢が拡がると思われます。日本社会のジェンダー格差や女性活躍施策の推進といったマクロ状況と、個々の女性の生き方がどのようにつながっているのかについて、さらに踏み込んで考察する機会があると、山口さんが感じている「もやもや」した不全感の正体に迫ることができるのではないかと考えられます。


劉志秀(りゅう ししゅう)さん

劉志秀さん

Ⅰ.フェース情報               
 中国出身の劉志秀さん(37歳)は母国で遼東学院(3年制大学)を卒業後、京都励学国際学院支部(瀋陽市)で6年間、中国人学生の留学サポートや翻訳等、事務員として勤務。日本人のパートナーと出会い結婚。パートナーの帰国に伴い来日。京都市内に5歳と10か月の2人のお子さん、パートナーの4人でお住まいです。通学時間は電車で1時間程度。日本ではコンビニエンスストアでアルバイトとして1年半、働いた経験があります。

Ⅱ.受講動機
 この講座は夫の勧めにより受講。中国語で仕事ができると自信があり仕事を探したが不採用だったこと、このコースで学べば日本での就業に役立つと聞いたこと、家で時間を過ごしているより日本の大学でと思ったことが受講の動機だとのお話です。

Ⅲ.プログラムの評価
 とても満足していますとのこと。母国の大学での専門は会計だったが、リカレント教育で詳しく学べて具体的なことがよくわかったので、仕事にしたかった経理の助手が日本でも中国に戻ってもできるようになったと思う。また、このコースで2ヶ月間の勉強を通して日本語の語彙も増えて、これまでなかなか合格できなかった日本語能力試験2級に合格、自分が思ったよりいい点数(153点/180点)を取ることができました。仕事で使える日本語を身に付けることができた。中国ではほとんど学べなかった パソコンスキルについてもパワーポイントを作ることができるようになって嬉しいと話してくれました。
「ライフ・キャリアデザイン」の講座では、グループワークやディスカッションを通じて、自分にはチャレンジする力があることに気づいた。キャリアについても、人生は長いが、その間、時間や機会をうまく捉えて活用しながら自分の好きなことをやるのがよいと思うようになった。今後は、中国語が使えて事務で助手やサポートの仕事がしたいが保育がネックとなっている。0歳を預かってくれるところは少ないと心配そうに話されました。

Ⅳ.インタビュアー所感
 劉さんは、来日後は日本の大学で勉強したいと思っていらしたのが、妊娠でできなくなったという経緯があり、もともと学ぶ意欲が高い方だったと思われます。また、上のお子さんが2歳の時にはコンビニで働いていたというお話や、好きな会計助手の仕事が中国に戻ってもできるかもしれないというお話は、女性が結婚・出産後も働き続けることが当たり前の社会である中国の国民性を感じました。中国で出会ったパートナーは家事も育児もやり劉さんの学びも仕事も応援してくれるとのことです。助手やサポートの仕事がよいと話された劉さんですが、「ライフ・キャリアデザイン」では、挑戦する力があるとの発見がありました。個別相談を活用しながら、中国語と挑戦する力を活かすことで就職先の選択肢はもっと広げられるのではないかと感じました。


(6)リカレント教育課程の課題と今後の展開について

 竹安特命副学長は、広報面と保育の手当の2つの課題を挙げます。広報については、リカレンについて採用側に知ってもらうことが必要だとお話になっています。これまで、京都女子大学の運営母体である学校法人京都女子学園の同窓会、同法人運営の幼稚園、小学校、中学校、高等学校で保護者向けに情報を提供したが、反応がなく潜在的な受講生の掘り起こしが課題となっています。
 また、求人側へのアプローチとしては、京都中小企業家同友会に働きかけているほか、京都信用金庫主催の企業向けセミナーでリカレント教育課程についての情報提供を行ったり、京都府商工労働観光部の協力を得て求人先開拓に努力されているとのこと。生活者としての視点を持ち、高い意欲をもつリカレント履修生について知ってもらうように、さらに経済界へ働きかけたいとのお話でした。
 保育については、2020年度からは京都市東山区保育園協議会の協力で京都女子大学の教職員、学生、リカレント受講生の子どもの保育を受け入れてもらえるように手当て済みとのこと。
 今後の展開については、府内の中小企業従業員研修としても活用してもらえるように、働きながら学べるコースとして、E-ラーニングと土曜日の対面授業を組み合わせたコースを開設したいとのこと。男女共同参画センターでE-ラーニングを実施する意向があれば、コンテンツ提供が可能とのことでした。