明治大学の社会人女性対象プログラム
「女性のためのスマートキャリアプログラム」
プログラム概要
明治大学の生涯学習機関リバティアカデミーは、公開講座のほか、厚生労働省の求職者向け大学委託訓練講座を開催する中で、受講生の8割近くを女性が占めるようになったことをきっかけに、女性向けビジネスプログラムとして、2015年春より、仕事復帰・キャリアアップのための昼間コースをスタートさせました。同年秋には、女性リーダー育成・キャリアアップのための夜間・土曜主コースを開始、現在は、春と秋の年2回、半年間のプログラムを開講しています。昼間コース受講者の属性は、専業主婦、フリーランス、起業準備中、家業運営の方など多岐にわたるとのこと。開講当初は専業主婦の方が多く、1期生は42名でスタートしましたが、今期は15名となっています。昼間コースの受講者が減少傾向にある一方、夜間・土曜主コースの受講生は増加しているそうです。
2020年1月、同プログラムが開講されている明治大学駿河台キャンパスを訪問し、同プログラム担当の学術・社会連携部 社会連携事務室の高橋さん・国分さんと昼間コース受講生のお2人に話を伺いました。
明治大学 学術・社会連携部 社会連携事務室 高橋さん・国分さん
この日はインタビュー後に「ビジネスコミュニケーションⅡ(再挑戦のためのキャリアデザイン)」を見学させていただきました。見学したのは、前半の座学部分のみでしたが、後半はグループワークの形式で進むとのことでした。
担当のお2人は、同コース以外にも自治体連携講座やリバティアカデミーの業務も兼務しているため、一人ひとりのケアに十分な時間が避けないということが悩みであるものの、受講生がエンパワーメントしていく姿を間近で見ることができることは、仕事のモチベーションにもなっているとのことでした。また、このプログラムでは、再就職だけを目的とするのではなく、女性の多様な生き方を尊重し、次のステップへの助走期間として学んでいけることを意識しているそうです。両コースの必修科目である「ビジョン・ロードマップ」の授業では、将来の進んでいく方向を各自描いていくそうです。
本プログラムにおける課題としては、1.プログラムの認知度アップ、2.連携先の開拓、3.修了生のネットワーク構築を挙げられていました。1については、必要な層に情報を届けられていないという危機感とともに、大学内での認知度を上げていきたい(現在は商学部および専門職大学院の教員が中心)。2については、就職先としての企業との連携に加え、保育施設を有していないので、近隣の男女共同参画センター等との連携も考えたい。3については、同期受講生のつながりは強いものがあるが、これまでの300人を超える修了生のネットワークをうまく活用していければとのことでした。
D・Hさん(40代)
Ⅰ.プロフィール
新卒後、約5年間生命保険会社の人事部で福利厚生を担当。大阪本社に勤めていましたが、結婚と同時に海外を経て関東に移り住むことになり、会社は退職。その後、関東では派遣で仕事をしていました。20代後半に第1子を出産、そこから約15年間は3人の子どもの子育てに専念しながら、PTAの役員やアイシングクッキー講師の資格を生かして子どもたちにクッキーづくりを教えるなどの活動をしました。
Ⅱ.受講動機
いちばん下の子が小学校高学年になったころ、「働き始めたい。自分を主役にしたい」と考え始め、いくつかの派遣会社に登録。しかし、面接にすら至らないことが続き、自分のスキルが通用しないことを思い知りました。そこで、明治大学のスマートキャリアプログラムを受講する決心をしました。以前から「学び直したい」という気持ちは持っており、インターネットでいろいろな情報を検索し、このプログラムのことも知っていました。行動心理学、論理的思考など興味のある科目が入っていたのも魅力でした。半年間という期間も、長いブランクがあった自分にとっては受講しやすい、と感じられたのです。
Ⅲ.プログラムの評価
受講できてとてもよかったと思っています。考え方が変わったというのが一番大きいです。ブランクが長く、自信がなかったり臆病になっていたり、社会貢献できていないという後ろめたさがあったのですが、ここで学び直すことによって、「仕事から離れていた期間もブランクではなくスキル」と考えられるようになりました。どの授業も自分を見つめ直す機会がとても多い。例えば「ブランド・マネジメント」の授業では「自分のブランドは何か」が問われます。自分が「蓋をしたかったところ」を開示させられることによって、子育てがマネージメント能力や忍耐力を育み、PTA活動が、多様性を受けいれるキャパシティや協調性を身につけさせてくれたことに気づかされたのです。自分の「弱み」が「強み」だと気づかされる経験の連続でした。これからの自分の人生の大きな自信と力になってくれると思います。
Ⅳ.インタビュアー所感
Dさんは、スマートキャリアプログラムがメインターゲットとしている受講生像に近いのではないでしょうか。プログラムによって、仕事から離れていた時期を再評価し、その自信を得て、再就職にチャレンジしています。人をサポートする仕事をしたい、という自分の希望も見えてきたそうです。希望は正社員でかつ家庭と両立できる時短勤務ですが、そうした求人が少ない現状もふまえ、まずは自分のスキルアップを目指し、派遣で仕事を始めたいとのことでした。「派遣登録で仕事を探す」というのはプログラム受講前と同じですが、その内実は大きく違うでしょう。とはいえ、せっかくプログラムを修了したのですから、受講前とは違う仕事の探し方があってもいいのではないか、とも考えます。Dさんをはじめ、受講生は20代から60代のさまざまな背景やスキルをもつ意欲の高い女性たち、とのことです。プログラム修了生をターゲットにした求人が増えることが、受講生からも望まれていると感じました。
井田優里さん(50代)
Ⅰ.プロフィール
大学卒業後、総合職初期世代として損害保険会社に入社。5年間勤務した後、手に職をつけたいと考え、アナウンススクールと中小企業診断士の資格取得の講座に通いました。アナウンサーとして、関西のラジオ番組でお天気コーナーを担当し、イベントの司会などもやりました。結婚を機にアメリカに行き、そこでクラフトビールと出会い、帰国後にビアテイスターの資格を取得、地ビールについての取材や執筆活動に従事、また、研修会社の専任講師として研修講師を行っていました。30代後半、出産を期に仕事を中断。10年ほど子育て中心の生活を送り、5年ほど前から同研修会社の講師として復帰。現在は、中小企業診断士の資格を活かしたコンサルタントを目指して修行中です。仕事はフリーランス、個人事業主として続けています。
Ⅱ.受講動機
中小企業診断士として自分の専門性を確立したい、そのために「学び直したい」と考え、いろいろな大学の講座を調べた結果、このスマートキャリアプログラムが一番、自分の希望にかなうと思い、受講を決めました。このプログラムのほかにも、中小企業診断士の協会で、複数の勉強会や研究会に参加しています。
Ⅲ.プログラムの評価
受講してとてもよかったと思っています。こちらのプログラムには、知識を得るための勉強だけでなく、「女性が働く」ということにスポットをあて、それについていろいろな視点から考えるための科目が数多く、組み込まれています。女性経営者や起業されている方の話をうかがう機会も多く、自分自身のキャリアを見つめ直すきっかけになります。講師によってスタイルは違うのですが、グループワークも多く、受講生同士、ディスカッションするなかで、自分はどんなことが好きなのか、どんなことがやりたいのか、どんなことができるのか、繰り返し自分と向き合うことになります。受講生はさまざまな経験を持っており、バラエティに富んだ話を聞けるので、それが刺激にもなります。いろんな方がいて、みんなこれからを一生懸命考えている、そのことに励まされます。講師陣との出会いはもちろん、受講生との出会いも大きいと感じています。
Ⅳ.インタビュアー所感
井田さんは、たくさんの仕事の経験をお持ちで、エネルギッシュに活動を続けられています。プログラム受講前から、中小企業診断士としてプロのコンサルタントを目指す、という明確なビジョンを持っており、専門性を高めたいと受講を決めたそうです。ですが、そうした専門的知識を得るための授業だけでなく、「女性の働き方を考える」「キャリアの棚卸し」というような授業内容を高く評価していました。こうしたプログラムは、従来、女性センターなどでも行われてきたものですが、「ライフ・キャリアマネジメント」「ブランド・マネジメント」といったビジネス・スキルの授業の中に位置づけられることで、大きな効果を発揮しているようでした。