モデル事業:仙台の事例

自立を目指す女性のための“学び直し”を通したキャリア支援事業

 仙台では中卒や高校中退など、10代で十分な学びの経験を得ることができなかった女性を対象とした学習支援が始まっています。基礎学力の不足によって就職活動のみならず日々の生活でも不便を感じ、自信をなくしている女性たちに「生きる力」を取り戻してもらうための新しい試みです。2018年12月26日に仙台駅前にあるエル・ソーラ仙台(公益財団法人せんだい男女共同参画財団)をお訪ねし、事業にかかわられているスタッフのみなさんと受講者のお一人にお話を伺いました。

この事業の概要

 伴走型の学習支援による基礎学力の向上のための「学び直し」と、性別役割分担意識にとらわれないキャリア支援を並行して行うものです。キャリア=人生ととらえ、各種試験等の合格率だけを成果とするのではなく、「学び方」を学び、学び直すことによって、自走する力を身につけ、生き方を選択し、何度でも自らチャレンジできる力を養うことを目的としています。それぞれが思い描く最終的なキャリア目標に向けた取り組みの「最初の一歩」を後押します。


事業の背景・課題


事業イメージ


文部科学省受託事業チラシ_仙台のサムネイル


(公財)せんだい男女共同参画財団の皆さん


公益財団法人せんだい男女共同参画財団 総務企画課長 渡邊ひろみさん

 仙台における女性の自立及び社会参画を促進するさまざまな事業を行ってきましたが、相談事業や再就職支援に取り組むなかで新たな課題も見えてきました。10代で十分な学びの経験を得ることができなかった女性がいざ再就職を目指しても、「学ぶ経験」の不足が障壁になっているということに気付いたのです。また、そもそもキャリア目標が設定できない、それ以前に、自分が「どうなりたいか」という人生のビジョンを描くことができないでいる方も少なくありません。それは単に学歴といった問題ではなく、勉強や自分の能力に対して自信がもてないことに起因するのではないかと思いました。そこで、キャリア支援と一人ひとりのニーズに応じた学習支援を並行して実施することで、人生の可能性を広げてもらいたいと考えました。
 受講者はキャリアカウンセリングと同時に学習カウンセリングを受け、どのような学習が必要か、どのような能力を身につけたいのか自ら確認し、学習支援担当者と一緒に個別の学習支援計画を立てます。それにそって1回、約110分の授業を月2回、受講してもらいます。授業は仙台で震災遺児の学習支援活動にもかかわってきた一般財団法人学習能力開発財団の協力を得ていますが、「学ぶ楽しさ」を伝えることを第一に、取り組んでもらっています。現在受講者は12名で、10代から50代までの幅広い年代の方が参加されています。シングルマザーが5名、若年無業未婚の方が5名、有配偶の方が2名です。学習する科目は国語が多く、ほかに算数・数学や英語、理科を受講されている方もいます。
 この事業を始めて、私たちスタッフも多くのことを学んでいます。授業に生き生きとした表情で参加する受講者を見ていると、「学ぶ喜び」は「生きる喜び」であること、それが「生きる意欲」につながることを再認識させられます。事業の成果のひとつとして、学習意欲が自己肯定感の高まりや就業意欲によい影響を及ぼしていることを示せれば、と考えています。

仙台市母子家庭相談支援センター 所長 行場麻衣子さん

 当センターは厚生労働省の母子家庭等就業・自立支援センター事業として、2013年度からせんだい男女共同参画財団が仙台市からの委託を受け、エル・ソーラ仙台内で事業を行っています。シングルマザーの就業と自立をサポートするために、就業・自立相談、就業支援セミナー・講習会、母子自立支援プログラムなどを実施しており、離婚成立前のプレシングルマザーも対象にしています。2017年度の延べ相談件数は781件です。
 就業だけをゴールとは考えず、エル・ソーラ仙台の女性相談事業と連携して日ごろから離婚やDVからの回復期にある女性たちに寄り添い自立に向けた就業・キャリア支援を行っています。一人ひとりの背景に思いを寄せ、切れ目のないサポートができるという意味でこの事業は私たちがまさに目指していたものです。
 この事業が始まってまだ4ヵ月ですが、学ぶことの意味を意識できるキャリア支援と、基礎学力の向上を目指す個別の学習支援を並行して行うことによって、受講者一人ひとりに対して本人の目標とペースに合わせたサポートが可能になっていると思います。さまざまな理由で学校教育を十分に受けられなかったが故に、困難な状況に陥っている女性たちに対して、この事業のようにきめ細かなサポートはなにより必要です。また、今回タイミングが合わずに参加できなかったシングルマザーのためにも、次年度以降もこの事業が継続できることを切に望んでいます。

受講者 K.Sさん(40代)

 現在、6歳から12歳の娘3人を育てているシングルマザーです。准看護師を目指して専門学校の受験の準備をしています。1年ほど前から、仙台市母子家庭相談支援センターに相談にいっていたのですが、担当の方から「今度こういう支援事業が始まるよ」とお聞きして、もう即座に「お願いします」と参加を希望しました。私のために作られたような事業だなって、本当にうれしかったです。これから3人の娘を育てていこうと考えた時、准看護師になろうと思ったのですが正直、どうしたらいいのかわからなかったんです。私は中卒で、長い間勉強から遠ざかっていましたから、そもそも勉強の仕方がわからなかった。それが、授業が始まると先生が私のためにテキストを選んでくださり、ワンオンワンで教えてくださるんです。授業は月2回ですがすごく楽しくて、次の授業までの間は宿題をしっかりとやっています。「自分はできるんだ」「自分で行動するってこういうこと」と、初めて思えました。子どもたちも応援してくれています。