モデル事業:尼崎女性センター「トレピエ」の事例

困難な状況にある女性のための学び直しを通したキャリア形成支援事業

 尼崎市女性センター・トレピエは、2004年7月1日からNPO法人男女共同参画ネット尼崎が指定管理者として管理運営を担っています。前身が尼崎市立女性・勤労婦人センターだったことから、市の直営時代も女性の就労支援事業に力を入れていた歴史がありますが、指定管理者が担うようになって、困難な状況にある女性の就労支援を手掛けるようになりました。生活保護や母子家庭等の生活困窮世帯が多い地域特性もあり、現在も困難な状況にある女性のための就労支援事業を継続して行っています。2019年9月6日、トレピエを訪問し、センター長の宮下智子さんと現在トレピエのスタッフとして働く元受講生にお話を伺いました。


この事業の概要

 トレピエで行われている女性の就労支援事業の一環として、就労を希望し経済的自立を目指す女性のための「個別就労相談付き自立をめざす女性のためのパソコン基礎講座」と就労を希望する女性対象の「しごと塾」を開設しています。これらの講座の修了生や連携機関のしごと・くらしサポートセンター尼崎の紹介で、希望があればトレピエで就労体験を行うこともできますし、無料託児付の就職面接会に参加することが可能です。託児や相談事業という施設の資源を活用できるのも男女共同参画センターならではの特徴です。


尼崎市女性センター・トレピエ センター長 宮下智子さん

センター長の宮下智子さん

 困難な状況にある女性のための就労支援事業は、2006年に全国女性会館協議会と共催で行ったマイクロソフト社の「女性のためのUPプログラム」の助成金事業である「母子家庭等の女性のための就労支援パソコン講座」をきっかけに取り組みました。それまでもパソコン講座や資格取得講座を実施していましたが、有料講座だったため、困難な状況にある女性の参加はありませんでした。助成金事業では、無料で講座を受講していただくことができるのが大きなメリットでした。
 現在も、「個別就労相談付き自立をめざす女性のためのパソコン基礎講座」(1回3時間×5回)として継続しています。有料のパソコン講座と同じ内容でワード・エクセルの基本操作が習得でき、個別就労相談を同時に受けることで就労意欲と自尊感情の回復を図れるように工夫しています。対象は、「就労を希望し、経済的自立をめざす女性」としていますが、ほとんどが母子家庭や生活保護世帯の女性です。
 また、2011年からは、働きづらさに悩む15~39歳までの独身女性を対象にしたパソコン&しごと準備講座(全国女性会館協議会共催・マイクロソフト社助成)を初めて実施しました。現在は尼崎市しごと支援課、尼崎雇用対策協議会と共催で「しごと塾」(1回5時間×6回、パソコン講座はなし)を実施しています。しごと塾は尼崎市しごと支援課が年間3クール実施している事業ですが、そのうちの1クールを女性限定にし、共催としてトレピエで開催。年齢は区切っていませんが、30代以下が多く参加しています。「しごと塾」にはパソコン講座がないので、本人の希望を聞きながら、センターで実施している他のパソコン講座や資格取得講座、メイクの講座に案内して、次の学びにつなげるようにしています。3年前に、尼崎市が兵庫労働局と雇用対策協定を結んだことから、ハローワークとの連携が深まり、トレピエで行う就労セミナーも積極的に案内してもらえるようになりました。また、年に2回、職種や雇用形態が異なる4社ほどに来ていただいて、無料託児付きの就職面接会も開催できるようになりました。
 このほか、トレピエでは、2011年からジョブ・トレーニングを実施しています。トレピエの事務室や情報資料室での事務作業のほか、併設のカフェでもホール業務や調理補助、ポップ作成などの体験ができます。「働きづらさに悩む若い女性のためのジョブ・トレーニング」は、3つのステップに分け(詳細は下記チラシ参照)、時間をかけて就労体験を積んでいきます。スムーズにステップアップできる人ばかりではなく、途中の段階であきらめてしまう人もいますが、「母子家庭等の女性のためのジョブ・トレーニング」も含め、昨年度までに67人を受け入れました。体験年度内に何らかの職に就いた人は15人(うち正社員4人)でした。

※クリックするとPDFが開きます
※クリックするとPDFが開きます
 

 受講生が抱える困難はそれぞれ異なるので、担当スタッフは受講生にここが安全安心な場であることを示しながら、決して就職をせかさず、その人の歩幅で歩めるように寄り添います。講座だけで終わることなく、相談、就労体験、面接会など、次につながる機会を用意することで、少しずつ進んでいることを実感できるように工夫しています。これらの事業は、受講生・参加者の満足度だけでその成果ははかれません。また、何人就職できたかというのも評価の対象にはしていません。「いつ戻ってきてもいい場所」であり、そこがだめでも今度はこちらというように、くじけないで次に進めるように心がけています。今後は同行支援ができるようになるといいと思います。事業の形態は今後も変化する可能性はありますが、困難な状況にある女性の就労支援は継続していきたいと思います。


受講生(M・Tさん 30代)

 2015年7月に開催された「私らしく働きたい女子のためのハッピーキャリアセミナー~さぁ、わたしの一歩を~」(全4回)を受講したのをきっかけに、その後、ジョブ・トレーニングを経て、現在トレピエで週30時間働いています。
 講座のことは、偶然トレピエの前を通りかかり、外の掲示板の募集チラシで知りました。当時はひきこもり状態だったので、ほかの人と話ができるだろうか、4回続けて通えるだろうかと不安な気持ちでいっぱいでしたが、タイトルの「私らしく働きたい」や「わたしの一歩」という言葉は、「前に進みたい」とずっと思っていた自分の気持ちにぴったりで、一大決心をして申し込みました。受講後は、パソコン講座を受講しながら、ジョブ・トレーニングを続けました。講座だけで終わっていたら、またひきこもっていたかもしれませんが、ジョブ・トレーニングがあったことで、目的をもって外に出ることができました。3段階目を修了した後は、トレピエで働くことになりました。まだ次の目標は見つかっていませんが、今よりよくなりたいという気持ちをもって仕事をしています。ひきこもっている人は「何とかしたい」「前を向きたい」と思っていても、どうしたらいいかわからないでいます。そんな人に、相談窓口があることや講座情報が届くといいなと思います。

M・Tさんが情報をキャッチした掲示板